名古屋高等裁判所 平成10年(ラ)79号 決定 1998年10月13日
抗告人
A
外二名
右三名訴訟代理人弁護士
太田耕治
抗告人
D
外二名
相手方
I
外四名
主文
一 原審判を次のとおり変更する。
二 抗告人A、同B、同Cの本件遺産分割の申立て及び寄与分を定める処分の申立てをいずれも却下する。
三 手続費用は、原審及び当審とも、抗告人A、同B、同Cの負担とする。
理由
一 本件各抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告人A、同B、同Cの抗告状及び抗告理由書(二通)、抗告人Bの抗告理由書、抗告人Dの抗告書及び抗告理由書、抗告人Eの抗告書及び抗告書・抗告理由書(二通)、抗告人Fの抗告書及び抗告書・抗告理由書記載のとおりである。
二 当裁判所の認定事実
次のとおり付加するほか、原審判四枚目表の一一行目冒頭から五枚目裏の一一行目末尾までと同一であるから、これを引用する。
原審判五枚目裏一〇行目末尾の後に、次のとおり加える。
「なお、同判決の理由中で、物件4、9はYの固有財産であったと説示されている。
(5) 本件においては、前の審判で遺産であるとされた物件は三一筆で、その相続開始時及び右審判時の昭和六二年ころの時価合計は、それぞれ一億八八〇三万八四三四円、三億八二一六万五五六三円であるのに対し、判決で遺産でないとされた物件のうち、物件4の相続開始時及び右審判時の昭和六二年ころの時価は、それぞれ一五五万一六四五円、三三〇万四二六〇円で、物件9の相続開始時及び右審判時の昭和六二年ころの時価は、それぞれ四七八万二五四〇円、一〇一二万〇九二〇円であるにとどまる。」
三 当裁判所の判断
1 前の遺産分割の審判において、その対象となった物件の一部が、その後の判決によって遺産でないとされたときには、その遺産でないとされた物件が前の審判で遺産の大部分または重要な部分であると扱われていたなどの特段の事情のない限り、遺産でないとされた物件についての前の審判による分割の効力のみが否定され、その余の物件についての分割は有効であると解するのが相当である。
けだし、右の特段の事情のある場合には前の審判による遺産分割の意味が失われるので、前の審判を無効とすべきであるが、そうでない限り、前の審判そのものを無効とすべき理由はないからである。そして、このように解したとしても、遺産でないとされた物件を取得するとされた相続人は、民法九一一条に基づき、他の相続人に対し、その相続分に応じた担保責任を求めることができると解するのが相当であるから、格別不当な結果が生じるものではない。
2 しかるに、前記認定(引用にかかる原審判の認定を含む。)のとおり、本件においては、前の審判で遺産であるとされた物件は三一筆で、その相続開始時及び右審判時の昭和六二年ころの時価合計は、それぞれ一億八八〇三万八四三四円、三億八二一六万五五六三円であるのに対し、判決で遺産でないとされた物件のうち、物件4の相続開始時及び右審判時の昭和六二年ころの時価は、それぞれ一五五万一六四五円、三三〇万四二六〇円で、物件9の相続開始時及び右審判時の昭和六二年ころの時価は、それぞれ四七八万二五四〇円、一〇一二万〇九二〇円であるにとどまること、前の審判で、物件4を所得するとされたGは他に物件2、6、11、31を取得するとされ、物件9を取得するとされたYは他に物件1、5、8、10、12、13、18、19、24、27、28、29、30を取得するとされていたことからすれば、右の特段の事情はないというべきである。したがって、物件4、9については前の審判による分割の効力が否定されるものの、その余の物件についての遺産分割は有効であると認められる。
そうとすれば、本件においては、前の審判によって被相続人の遺産は全て分割済みであって、すでに分割すべき遺産が存しないので、抗告人A、同B、同Cの本件遺産分割の申立て及び寄与分を定める処分の申立ては不適法であるから、これを却下すべきである。
四 結論
よって、右と異なる原審判を変更することとし、手続費用の負担につき家事審判法七条、非訟事件手続法二六条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 寺本榮一 裁判官 矢澤敬幸 裁判官 内田計一)